口唇裂および口蓋裂の治療

お母さんと子供の手

「母乳やミルクはしっかり飲めるだろうか・・・」「言葉をきちんと話せるようになるだろうか・・・」「周囲から心ない言葉を受けることはないだろうか・・・」「とのような治療が必要になるのだろうか・・・」

口唇裂・口蓋裂があるお子さんをもつ保護者の多くは、不安や心配をたくさん感じています。

現在、口唇裂・口蓋裂をもつお子さんに対する治療法は、かなり進歩しています。そのため、見た目にも機能的にも限りなく正常に近い格好に治すことができます。

しかし、口唇裂・口蓋裂の治療は何度も手術が必要だったり、治療期間が長期に及んだりすることが一般的です。そのため、ご家族の精神的な負担や肉体的な負担も大きくなります。

私たちは、お子さまの健やかな成長を手助けするだけでなく、家族の心のケアにも配慮することを大切にしています。

「川崎医大」および「国立医療センター」と連携しながら、口蓋裂・口唇裂があるお子さんの治療をおこなっています。

口唇裂・口蓋裂とは?

妊娠7週目~12週目頃に、「唇や上あご」ができあがります。この時期に、何らかの原因でアゴ骨が完成せず、裂が残ったままの状態になったものが「口唇裂・口蓋裂」になります。

その原因は様々で、600人に1人の割合で生まれてくる頻度の多い、先天性外表異常の一つです。

口唇裂・口蓋裂の手術の目的

口唇裂の手術は正常な形に治すことを、口蓋裂の手術は正しい言葉が話せ、上手に食べれることができ、そして歯並びや上あごの形を美しくすることを目的にしています。

当院からご家族の方へ

当院は口蓋裂の赤ちゃんに必要なホッツ床の型どり、製作、成長期の矯正治療を行なっています。
また、専門の病院、医療チームとの連携・診察に応じた治療方法などをご説明し、安心して患児を任せていただくための総合的な専門医療を行っております。

治療のながれについて

治療の第一ステップとして、生後すぐに矯正歯科(かなお矯正・小児歯科クリニック)では、鼻と口をへだてるホッツ口蓋床を作製します。専門の病院と連携し、耳鼻咽頭科では鼓膜の奥に水が溜まっていないか(滲出性中耳炎)の診察をします。
リハビリ科では言語聴覚士が発育のチェックをします。看護師による療育指導が行われ、医療課では入院費用や育成医療などの相談・アドバイス・サポート等を行います。
生後3ヶ月に口唇裂、1歳6ヵ月に口蓋裂の手術をします。(形成外科)
専門外来では、形成外科医・矯正歯科医・耳鼻咽喉医・言語聴覚士がそれぞれの分野の診察を行います。

妊娠中 生後0~1日 可能な限り早い時期 7日 1ヶ月 3ヶ月 1歳6ヶ月 2歳 5~6歳 7~11歳 ~18歳
母親 出生前診断 出産産科 形成外科受診 退院
自宅
 専門外来開始
新生児科 入院 入院 入院 入院 入院
形成外科 出生後の治療についての情報提供 治療方針説明・入院予約 ※主な入院期間の目安 口唇形成術
1週間程度
口蓋形成術
10~2週間
外鼻形成術
1週間程度
骨移植
10~2週間
細部の修正術
リハビリ科(言語) 出生後の発育(授乳)についての説明 発育チェック(授乳指導) 言語指導
(発達・構音)
小児歯科

矯正歯科

ホッツ床
型どり
ホッツ床
装着
ホッツ床
調整
顎成長に伴う継続的な診察・治療 基本検査  本格矯正

治療開始

耳鼻科 耳鼻咽頭の診察 中耳炎を中心とした診察・治療 将来への心配事の支援

ホッツ床とは?

ホッツ床とは、上あごの割れているところを覆う入れ歯のような装置です。
成長に合わせて調整や作りかえをして1歳半頃まで使用します。
哺乳の手助けのほか、上あごの裂幅を小さくしたり、良い上あごの形を作る効果もあります。

口唇形成術の準備について

手術は一般的に3ヵ月頃に全身麻酔で行われます。体重は6キロ程度が望ましいとされています。
手術後の約1ヵ月は安全帯(腕輪)を装着します。

口唇形成手術後の注意事項

傷の保護のためにテープ固定を行います。
スポンジなどを使用することもございますので、詳しくは医師・看護師にお気軽にお問合せください。

口唇形成手術後の哺乳方法

細口哺食器

手術後の哺乳は「吸う」ことにより引っ張られ、創部の悪影響を及ぼす可能性があるため、細口哺食器を使用します。
使用に慣れるための練習を手術前(2ヵ月頃)から推奨しています。

細口哺食器の使用方法(練習方法)

慣れるまでは、お子さまがぐずついて飲まない・すぐにむせるなどのトラブルがあるかと思いますが、気長に行ってください。
また、手術後は痛みや違和感、点滴などの影響で一時的に飲みが悪くなることがあります。
手術前から自宅でゆったりとした気持ちで十分練習していただくことで、ご家族もお子さまも安心して手術を迎えることができます。
2ヵ月を過ぎたら細口哺食器を使用して、お子さまが眠くてミルクを欲しがる時や、機嫌の良い時などから練習をはじめて、少しずつ慣れていきましょう。

手順 ① お子さまをしっかりと立て抱きにします。
寝たままの哺乳は誤飲の原因になりますので必ず立て抱きで行ってください。
手順 ② 細口哺食器の先端2~3センチを口に挿入し、お子さまの舌へあて、もぐもぐできるようにします。
先端に大きな穴があいているためミルクがぽたぽた垂れますが、お子さまがタイミングをつかむまで、根気強く行ってください。
「ごっくん」と飲むタイミングに合わせてソフトボトルを押してあげると、一度にたくさんのミルクを哺乳させることができます。
手順 ③ 飲み終えたらしっかり排気させてください。
普通の乳首に比べて口の中の密着度がないため、多くの空気を飲んでしまい嘔吐の原因になります。

口蓋形成術の準備について

手術は一般的に1歳6ヵ月頃に全身麻酔で行われます。
手術後は傷口がお口の中にありますので、お子さまの手が入らないよう、手術後の約1ヵ月は安全帯(腕輪)を装着します。
また、日頃から指吸の癖がつかないよう、ご注意ください。

口蓋裂手術後の注意事項

口蓋裂手術後は口蓋の傷の痛みや嚥下痛が強く、食事の量が減りますので、点滴の期間が長くなります。
食事はおもゆなどの流動食からはじまり、順次粥へと変わっていきます。
飴やチョコレートなどの甘いもの、リンゴや柿などかじって食べるもの、煎餅やポテトチップスなど硬い食べ物は禁止です。
食事の方法は当面の間、プラスチックのスプーンを使用しご家族の方がゆっくりと食べさせてあげてください。
食事の最後にはお茶を飲ませ、口腔内を清潔に保ちましょう。

医療費について

口唇裂・口蓋裂の治療には、以下のような公的な支援があります。
まず、乳幼児医療費で対応され、その後は育成医療の対象になります。

①乳幼児医療費 乳幼児の医療費を各市町村が助成する制度です。
各市町村、各都道府県によってその内容(対象年齢や所得制限など)が大きく異なります。
②自立支援医療(育成医療) 国の法律に基づいて実施され、18歳未満が対象です。
指定育成医療機関でのみ受けることができます。

むし歯予防について

特に口蓋裂があるお子さまの場合は口の中に裂があるため、自浄作用が落ちて口の中や周囲を清潔に保ちにくくなってしまいます。
虫歯ができると矯正治療にも影響しますので、予防に心がけましょう。

①食後(授乳後)は白湯や番茶を与えて、可能な限りミルクや食べカスが口の中に残らないようにしましょう。
②毎日ホッツ床を磨き、口腔内を清潔に保ちましょう。